背信(1)

作者:佐藤@Celaeno
[2019/05/20(月)]
「初秋」

[誘拐(2)] [背信(2)]

「どこに連れて行くんだよ」と仏頂面をする佑司を見ながら、つくづく可愛げのない子供だと八幡は思った。 佑司を乗せて彼の向かった先は、市原市の山奥にある雪ノ下家の別荘であった。雪ノ下雪乃の父はいまや国会議員になり、政財界に顔が利く大物であった。建設業は東日本大震災の復興事業や、そのあと頻発した房総東方沖地震、東海・東南海連動地震などで発生した復興特需、チャイニーズヘゲモニーと米英露日連合の戦争による朝鮮半島やベトナム、西日本の復興事業などで潤って会社の規模も大きくなっていた。現在は、月に建設中の米英露日中合同のヘリウム3資源採掘基地の建設や太陽光発電施設の建設事業などにも乗り出している。あまり褒められたことはないが、政治力を活かしてこれら事業の受注を獲得した結果であった。 「俺の知人の別荘の一つに行く。それとも、他に行く宛でもあったか。なら、そこに送り届けてもいいが、きっと君の父上に連れ戻されるだろうな」と八幡は言った。 「そんなの、絶対に嫌だ」と佑司は膝を抱えるようにして言う。 「俺としても、せっかく保護したのにむざむざ渡してしまうのは心苦しい。暫く俺と一緒に山奥でキャンプとしけこもうじゃないか」 「キャンプ!?別荘に行くって・・・・」 「いつから、別荘地で優雅な避暑生活を送れると錯覚していた。これから、その別荘の敷地内でキャンプをするんだよ。俺の作りかけのログハウスを作りながらな」 「ひでえ、、、、」 市原市の南部は、いまや南関東でも随一の別荘地となっていた。これもやはり房総東方沖大震災の影響であった。あたり一帯が被災して復興の遅れで元々少なかった人口が流出し、その空白を埋めるように富裕層が別荘地として買い求めて一大コロニーを形成していた。雪ノ下家もそういう富裕層の一員であった。雪乃はそんな実家から距離を置いていたが、入り婿を迎えて家の事業を継いだ雪乃の姉陽乃がなにかと便宜をはかってくれる。難儀な事件の最中は、ちょくちょく保護対象のセーフハウスとして関東各地の別荘を借りていた。いい加減、商売敵などから関係者としてマークされそうだが、そこは議会などに影響力のある政商である雪ノ下家の所有物件であるからうかつに手が出せない。潔癖性の少年ならいざ知らず、元々目的のためなら手段を選ばない八幡としては、利用できるものはなるべく利用する主義であり有り難く利用させてもらっていた。 京葉道路から館山自動車道を経て、市原料金所で国道297号線に入り南下し、米沢のあたりで県道51号線へ、そのまま高滝にある別荘地まで進んで行った。このあたりはすっかり豪勢な別荘の立ち並ぶゲーティング・コミュニティーとなっており、八幡のような半端な階層の人間ならば普通は入りこめない地となっていた。高滝ダムの形成する人工湖は美しく整備され、湖にはヨットが浮かんで気の早い連中が持て余した夏の余暇を思う存分楽しんでいる。雪ノ下家の別荘は、湖に面する整地された高台にあった。湖岸にはプライベートなヨットハーバーがある。そこには、中型のヨットと小型のボートがいくつか係留されていた。八幡は、敷地に入ると、雑木林の道に入り、少し開けたところに車を止めた。 50メートルくらい離れたところには雪ノ下家の別荘の母屋がある。木々によって遮られて、お互いにプライバシーを侵害しない程度には隔てられていた。目の前には作りかけのログハウスがあり、その脇には部材となる木材が積み上げられていた。一部完成しているベッドルームがあり、その覆いであるブルーシートを除けて戸を開く。中に入ると、整理して置かれた箪笥と本棚があった。とりあえず、ログハウス制作の活動拠点として一部屋だけ作った寝室兼居間のテーブル、それに付属する椅子に腰掛けるように佑司を促す。佑司が座ると、ヤカンを持って水を組んで来る。近くの道具置き場からガスコンロを持ってきてヤカンをかけ、インスタントコーヒーを入れる準備をはじめた。 「六畳くらいしかない・・・・」 「作りかけだからな。あと、台所と二部屋くらい付けてそれなりのものを作るつもりだ」 「風呂は?」 「外にあるだろ」とって示した先には、ドラム缶があった。 「ドラム缶・・・・・」 「ああ、あれで十分さ。あれで湯を湧かして星を眺めながら風呂をあびるのさ」 「高級別荘地でログハウス、風呂はドラム缶ってなにか間違っていないの?」 「俺には正しいことだ。金持ち連中のような生活様式に対して、目の前で真逆なことをやってアンチテーゼを提示してやるのさ」 「捻くれているなあ・・・・。でも、敷地は知り合いの金持ちの物なんでしょ。変でしょ」 「そのうち、買い取る予定さ。格安で譲ってくれるそうだからな」 「・・・・・・」 暫くすると、外から車のブレーキ音とドアを開け閉めする音が聞こえてきた。そして、戸が開く音とともに八幡の恋人が入って来る。 「あなたね、場当たりにも程があるでしょ。行動パターン把握が先だったんじゃないの?」 「機を見るに敏が俺のモットーでね。柔軟に対応させてもらった」 いきなり入ってきた雪乃をみて佑司は驚いた。綺麗な人だというのが第一印象だった。目の前の中年男と、一帯どういった関係なのか。まさか、恋人同士なのか?それとも単なる仕事仲間なのか。と邪推をする。 「ああ、俺の上サンの雪乃だ」 「まだ結婚はしてないでしょ。もう、本当に適当なんだから」 「まあ、適当なのはもうどうしようもないな。うん。適当にやって事件を有利に解決するまである」 「いままでがついていただけです。今後から、本当に今度からよく相談してからにして欲しいわ」 「ああ、相談する時間があったらな」といって、コーヒーを佑司と雪乃に差し出した。 「さあ、これからどうするか相談しようか」 「どうせ決めているんでしょ?」 「まあな、俺としては、この人生にやる気を無くした少年をなんとか更生させたい」 「・・・・・更生ってなんなんですか。俺は、、、、」 「いや、君は更生する必要があるんじゃないかと思う。君について、担任の磯辺薫先生から聞いたよ。それをを基にして、俺が導きだした結論だ。時間はたっぷりある。ゆっくり話し合おうじゃないか」 (つづく)

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