誘拐(2)

作者:佐藤@Celaeno
[2019/05/20(月)]
「初秋」

[誘拐(1)] [背信(1)]

相馬佑司と使用人を乗せた車は、一路千城台へと向かっているらしかった。県立千城台高校はいまだ健在であるので、おそらく千城台高校への編入手続きでもしにいくのだろうと八幡はあたりをつけていた。 『やはり千城台高校かしら』車内端末から雪乃の声が聞こえてきた。二人は、別々の車に乗ってそれぞれ二台まかり間に挟んで標的の車を追跡していた。 「千城台高校ってあまり良くない印象しかないなあ。親父たちが高校生だった頃には中堅校だったらしいけど、俺たちの頃は底辺校だったろ」 『最近はそうでもないらしいけど・・・・と、そろそろ到着するわね』八幡と雪乃は、車内端末を使っての打ち合わせ通り雪乃は近くの整形外科前にあるカフェで帰宅する車を待ち伏せし、八幡は千城台高校近くの市立図書館で高校の様子を監視することにした。このあたりも震災でかなりの被害をうけたはずだが一般家屋が多い。多分、震災後の経済的混乱を乗り切ることに成功した層が多かったのだろう。実際、市の調査報告書では復興支援が最低限で構わないとちょっと突き放した表現でこのあたりの状況が報告されていた。 図書館の窓から見える状況は先に訪れた南校とは一線を画していた。試しに最近の千城台高校の実績について調べてみたが、八幡たちが高校生だった頃と比べて格段に平均偏差値の値は上がっていた。震災後の経済混乱で、周辺地域の住民がいかに立ち回ったかによって、その後の学生たちの質に差が出ているらしい。子供達がどのように育つかはは、子供達自身の資質や親の資質よりも、経済的社会的環境が大きく作用するという証左であった。 暫く見張っていた八幡は、なにやら校内で異変が起きたことを察知した。教師や事務員たちが何人か、なにかを探しまわっているかのようであった。千城台高校の周りをさっと見渡すと、校舎から少年が一人駆け出しててき、裏口の一つに向かっていく。相馬佑司であった。彼は裏口から出ると、南西部の住宅地の路地に入り込んでいった。どうしたものかと思ったが、やがて南東方向の家屋や商業ビルの隙間から佑司が姿北東方向に走っていくのが見えた。大きく回り込んでモノレールに向かっているらしい。目的地がモノレールの駅であるとふんだ八幡は、先回りして佑司を確保することにした。  「はっ、はっ、はっ・・・・・糞ったれが。誰があいつらの言いなりになるもんか」と佑司は息を切らしながらエスカレーターで上がってきた。そして、徐に改札横の券売機に向かう。暫く料金表と路線図を兼ねた掲示板を見つめていたが、意を決したのか券売機に向かって手を延ばした。  「お前、なかなかやるじゃないか」と声がする。何者かと思って佑司が向いた視線の先には、一見してあまり目立たない感じの中年男性が立っていた。よく見ると、男は斜に構えた感じで、あまりまともな職業の人間とは思えない。目つきも悪い。「誰?俺急いでいるんだけど」もしかしたら、親父の奴が差し向けた監視要員の一人かもしれない。自分に感心がないようでいて、変なところで自由を束縛するようなことをやる。銀行の役付社員の癖に変な連中とも付き合いがある父を佑司はあまり快くおもっていなかった。  「裕福な生活に不満でもあるのか。粋がって家出をしようってんならやめとけ。なにも出来ない若造を甘やかして生活を助けてくれる程世間は甘くないぞ」やはり、父の手の者かと佑司の表情は厳しくなる。  「あんたに何が解る。親父もお袋も、俺のことなんかこれっぽっちも考えてくれない。互いに啀み合って、争いの渦中に勝手に引きずり込んで、子供の人生を滅茶苦茶にしようって奴等に付き合っていられる程俺は人間出来ちゃいないんだよ」  「まあ、俺もお前と同じ境遇に置かれたら、そう思うだろうな」と薄笑いを浮かべて男は言った。  「こんな早くに保護するのは予定外だったんだが、どうだ、俺と一緒に来ないか。相馬佑司君、それとも相模佑司君と呼んだほうがいいかな。どっちで呼ばれるのがいい?」  「あんた、一体誰だよ」  「俺の名は比企谷八幡」と言いつつ、胸のポケットから名刺を取り出して佑司に渡した。  「興信所の調査員?」  「俺は、君のお袋さんから依頼を受けている。君の保護・奪還をね」そう言った比企谷という男の顔は、名状し難い表情を浮かべていた。そして、佑司は千葉県内にあるとある別荘地に行くことになったのだった。 (つづく)

[誘拐(1)] [背信(1)]