約束の地(2)

作者:佐藤@Celaeno
[2019/06/03(月)]
「初秋」

[最終章「約束の地」] [--]

八幡と雪乃、そして佑司はひたすら山道を歩いて行った。 三キロくらい歩いていったところに、別の釣り堀があった。そこが、荒巻が指定した合流ポイントであった。 合流ポイントには、圏警察総務部第二課の課員たちがいた。ちなみに、総務部第二課は表向き文書管理を業務としていたが、実際には対敵防諜を任務としている。文書管理の実務は、それなりの報酬を払っている民間企業に委託しており、課員たちの大半は警察組織内外で敵対組織—組織暴力団や外国の情報機関、そして他の警察組織—からの浸透工作に対処するために活動していた。今回、県警や警視庁、国家警察局が利害関係者であると見なされて蚊帳の外に置かれた結果、荒巻の支配が及ぶ圏警察の総務部第二課が出張ってきたという次第である。 「比企谷八幡警視殿ですね」と、課員の一人が声をかけてきた。飛馬大陸警部、第二課を実質的に仕切っている課長代理であった。 「ああ、わざわざ済まない。今回助けていただいたことに感謝している」 「まあ、そうそう警戒しないでください。あなたたちは重要な証人なんです。彼らを追い詰めるまでは我々が責任をもって保護します」 「その後はどうなるのかな」 「その後のこともちゃんとしますよ。彼、相馬佑司君については証人保護プログラムが適用される予定です」 「ん?」八幡は、差し出される手を見て何事かと思って飛馬を見た。 「他の誰がなんと言おうと、俺が責任をもって守ります」そういう飛馬の目には、噓偽りはないように思えた。 「なら、あんたを信用しよう。だが、武装は渡さんぞ。いつ何時、奴等の反撃があるかわからないからな」と言って、とりあえず手に持った拳銃を傍に装備したホルスターにしまい込んだ。 「さあ、行きましょう」といって、飛馬は八幡たちを車へといざなった。 「あなたの掴んだ情報は役に立ちました」と車の中で飛馬は言った。 「奴等を潰せそうなのか」 「潰しはしません」と飛馬 「それは何故?」と雪乃が質問する。 「残念ながら、比企谷警視の情報だけでは完全に潰すことは出来ない。仮に、物部の部下まで辿り着いても、そこで蜥蜴の尻尾切りで終わってしまう。それよりも、情報を下に彼らを寝返らせ物部たちに食い込んだほうが得策だというのが荒巻氏の判断です」 「また政治か?」と八幡 「雪ノ下幹事長の意向も同じですよ。全く。上の連中の考えることはわからない」と笑顔をうかべて言う。 「『わからない』という割には、随分と理解ある態度だな」と八幡 「あなたもわかるでしょう。長年、軍や警察の仕事をしてきたんだ。物事は単純な正義だけでは動かせない。時に、不本意なことも甘受しないといけない。相手は巨大だ。潰すには、一つやふたつの荒事では足りないんです」 「わかってしまう自分が悲しいよ」 「今回、俺たちが出来たのは、敵の尻尾を掴むことだけ。本体に辿り着くには、更に膨大な時間と労力を必要とします。必ず辿り着いてみせる」 「その説明で納得しろと?」 「もう、納得しているものと思っていましたが」 「ああ、、、、」と言って窓の外をみやる。もう既に外は白み始めている。果たして、自分たちは暗闇から脱することが出来たのだろうかと八幡は思った。 「父さん」 車が行き着いた先は、中央道の藤野パーキングエリアの一角であった。そこに、予想外の人物がいた。相馬祐介と、何やら物騒な物腰の男二人、そしていかにもエスタブリッシュメントですという感じの男であった。剣菱啓次郎、剣菱銀行の専務理事であった。 「どういうことだ?」 「彼らと取引するためです」と飛馬が言う。 「填めたわけじゃあるまいな」 「お願いです。まかせて下さい」と飛馬は八幡に向かって言った。 「飛馬警部、話しは本当なんだろうね」と啓次郎が言う。 「あなたたちが、例の組織から我々に寝返れば、この件に絡む全てのことについて目をつぶりますよ」 八幡は、どういう絵図なのか、大体想像がついた。つまり、剣菱が双愛会と取引をした事実をとりあえずは公表しないことで、剣菱と双愛会を内通者に仕立て上げようということなのだろう。とすると、相馬親子はどうなるのか。八幡はそのことだけを思った。 「それは随分と我々に譲歩しているように思えるが。信用していいんだろうね」 「まあ、今まで通りの商売は出来なくなるでしょうが、その代わりに雪ノ下幹事長は雪ノ下建設とSNOW WHITE社の関わる事業への関与を剣菱グループに認めるとおっしゃっている。それでは不十分ですか」 「今まで散々、我々を外してきておいて、今更かね」 「あなた方も、いつまでも裏稼業で儲けていくってのは不本意でしょう。双愛会の相馬徹『元』会長も同意されていますが」 「あいつが?我々に断りもなく勝手に!?」 「まあ、組全体を危険に晒すよりかは、リスクの少ない事業に乗り換えるのが得策だと判断したんでしょう。あなた達もどうです。我々に乗り換えては」 「・・・・・本当に、あの条件でいいんだろうな」 「仕方ない。双方、妥当な落とし所ではないですか」 「わかった」 八幡が不信の目を向けていると、飛馬は思いもしなかった言葉を発した。 「というわけで、取引成立だ。彼らにとって、相馬親子は無用の存在となった」 「どうするつもりだ」 「とりあえず、彼らには死んでもらいます」 「で、この処置かよ」と、不機嫌そうに八幡はぼやいた。 「仕方ないでしょ。だって、表向き死んだことにしないと、取引がばれる可能性があるんですもの」 「とりあえず、彼らには死んでもらいます」そう言うと、飛馬の部下達の手によって八幡と雪乃、相馬親子は取り押さえられた。 「お前等、あれほど約束したのに裏切るのか!?」 「誰も本当に死んでもらうとは言っていないでしょ。全く・・・・。先程言った通り、証人保護プログラムの下、彼らは違う場所で違う人間として人生を送ることになる。そのために、ここで死を偽装しないといけない」 「はあ!?」 「おい、例の死体は用意してあるか」 「もう、準備できております」 「じゃあ、リモート死体には、壮絶なカーチェイスでも演じてもらって、相模湖に沈んでもらうか」 相馬家から拝借したらしいセダンには、相馬親子に似た風貌死体が三体乗っていた。 「彼らは?」 「先日、ある場所で無理心中をはかって死んだ親子です。一酸化炭素中毒により死亡した。その死体を、書類操作で掠め取ってここにこうしてある」 「些か疑念があるんだが・・・」 「本当に本当ですって。まさか、彼ら親子を救うために、他の、なんの関係もないし罪もない一般警察の署員の家族を犠牲にするわけがない」 「本当はどうなんだ?」 「今回の事件に絡んで、家族を巻き込んで無理心中を図った警官とその家族です。奴等の仲間ですよ」 相変わらず、身の毛もよだつような解決策を提示してくるものだと八幡は思った。 「彼らの葬式は?」 「公式には失踪したことになっているので、残念ながら。妻とその子には全く罪はないのですが、積極的に悪事に加担したこの刑事には同情は出来ない。何回も言いますが、彼らは無理心中して死んだんですからね」 「いいよ、そういうことで納得するさ」 その後、彼らは本当にカーチェイスを演じて事故を装い相模湖に突っ込ませた。なんとも都合の良いことに、引き上げられたときには大部腐敗が進んでいたとのことだった。かなり深いところに沈んだために、引き上げるのに時間がかかったそうだ。 「佑司君たち、どうしているかしらね」 「さあな。なんせ、証人保護プログラムは、保護官の裁量で、上役も事務処理などの内容には容易にアクセスできない。どこでどういう生活をしているのかはわからないよ」 一回だけ、担当の屋良有作(偽名)警部とあったことがある。「ジョンと呼んでくれ」と気さくに笑う彼は、とても善良そうに見えた。 「ああ、彼らなら今頃、関東圏のどこかで仲睦まじくやっているさ」と、豪快な笑いとともにそう言った。 「結局、私たちは彼らを救うことが出来たのかしら」と雪乃は言った。 「わからん。だが、最後には和解したんだ。きっと、親子の関係性を取り戻せたと信じたい」 再建された雪ノ下家の別荘からは、紅葉がまじった広葉樹の林が見えていた。 季節は初秋、これから秋は深まり、やがて冬へと向かうだろう。 落ち葉は一枚舞い落ちていく。八幡は、ただひたすら、相馬親子の幸福を願っていた。 (終劇) ------------------------------------------ ------------------------ ------------ ------ --- -- - 「ね、ね、どうだった?我の力作!」 「いやいや、これ本編だよね。なんであとがきにおまえが登場し、さもお前の作品であるかのように言っちゃっているの?」 俺は、材木座をにらみながら言った。 「はあ・・・・・・」と、隣で雪ノ下がため息をつきなが紙の束を膝の上に置いた。 「結局、私、、、げふんげふん。『雪ノ下雪乃』の活躍って大して無かったのね」 「まあ、こんなバランスの悪いパクリ小説モドキじゃあなあ・・・・」 「で、これで終わり?」 「なんか、このあと書き直しするとか言っておったぞ。もっと我の出番増やして!!」 「え、まだ続くの?てか、同人小説でディレクターズカットって、この作者本気か?いや正気か!?」 「みなさん、読んでくれるのかしら」 「いや、もう駄目なんじゃね」 「そうね、、、、、」 てか、由比ヶ浜、さっきからぐうすか寝ているけど、そんなにつまらなかったのか? いつも通り、材木座、そのあと由比ヶ浜が帰ってから俺たちは奉仕部の部室で二人でまったりしていた。 「八幡」 「なんだ、雪乃」 「もう進路は決まった?」 「ああ、進路調査票な。あれ、まだ書いていないんだわ」 もう、俺は専業主夫と決めているのに、何度もあんなの書かせるなよと思いながら外を見ている。 「一つ提案があるんだけど」 「なんだ?」 「その、、、、うちの父の会社に就職するというのはどうかしら?」 「えっ、まさか高校卒業後すぐ?」 「馬鹿ねえ、大学出てからに決まっているじゃない」 「警備部門?」 「いいえ、技術部門。数学の苦手意識を克服したんでしょ?」 「ああ、なんとなく建築に興味が湧いてきてな。あと、プログラミング言語も超楽しい。技術って、一度はまるとやめられなくなるのな」 「そう」と言って、微笑みながら俺を見る。 「きっと、、、、」そう呟いて、雪乃は一回言葉を切った。 「きっとね、人生においては岐路があると思うの」 「ああ、たしかにそうだな」 「修羅の道なんてあなたに似合わないと思うわ。どんなでもいいじゃない。普通に働いて、普通に結婚して、そして平和に暮らすの」 「お前らしくない提案に思えるな」 「だって、こんな、、、」と言って、財の字の書いた駄作小説をプリントした紙を持って続ける。 「こんな、人の人生や世界の裏側を見せつけられて心を苦しめるような人生って、、、、」 「いや、そんな人生も悪くはないと思うぜ。たった一度きりの人生ならな」 「八幡、、、、」 「別に、材木座の小説に触発されたわけじゃないが、警官とか探偵も悪くないんじゃねえの。人を助けて生きていくのは、決して人生を無駄にすることではないと俺は思う」 「そう、、、、」 「そんな生き方は嫌いか?」 「いいえ、そんなことはないわ」と、若干憂いをおびた顔をしながら雪乃は俺を見つめた。 「そんなあなたも決して嫌いじゃない。だから、私を置いてどこか行ったりしないでね」 「ああ、絶対そんなことはしないさ」 外の植木の紅葉が一枚堕ちて行く。 外はもう初秋を過ぎて本格的な秋に突入しようとしていた。 俺と雪乃はこれからどうなっていくのか。神ならざる人なる身ではな未来を見通すことなど出来るはずもない。 だが、どうなりたいかはわかっている。こいつを、俺なりの方法で幸せにしてやりたい。 とりあえず、専業主夫はねえなと思いながら、彼は舞い散る外の景色を眺めていた。 (おわり)

[最終章「約束の地」] []