キャッツキルの鷲(3)

作者:佐藤@Celaeno
[2019/06/03(月)]
「初秋」

[キャッツキルの鷲(2)] [最終章「約束の地」]

「ここか・・・・」 丹沢山系には、ところどころにヒメマス釣りの釣り堀があった。 昭和末期に全盛期を迎え、やがて衰退していまではいくつか細々と運営されているにすぎない。 その廃業したもののうち、一番山奥にあるつい最近潰れた釣り堀兼キャンプ場のひとつを双愛会が買い取ってアジトにしていた。 釣り堀兼キャンプ場の駐車スペースには、釣り客のものを装ったキャンピングカーやセダンなどが止められているが、場違うにみえる装甲車両があった。一見するとたんなるバンに見えるが、よく見ると防弾処理が施され銃眼が開けられている。中は暗闇でよく見えない。 ずっと、未舗装の道路の上を歩いてきたが、途中検問らしきものは一カ所だけあった。すぐそこの詰め所がそうだった。いま見張り役はは、八幡が忍び寄って薬剤を注射したためにいびきをかいて寝ている。素人はで助かったと内心で思った。 坂の上からキャンプ場に偽装した倉庫や組員たちの宿舎、そしておそらくは紛争地域や後進国から買い取られたか連れ曝れれた子供達がいるだろう小屋などが見える。キャンプ場の施設をそのまま流用した炊事場や、食料用に洋食されたヒメマスが泳ぐ川を改造して作った堀などでは夕食用のヒメマスを釣ったり裁いたりしている組員らしき人影が見えた。あまりののんきさに、今度は感謝するどころか怒りがわいてくる。「一体、真剣にやっているのか」と。 人が命の遣り取りを強いられている状況下で、相手は暢気に釣りをしたり釣った魚を裁いて食ったりしている。どこまで人を舐めているのだろうか。そんな理不尽な怒りが八幡を支配した。 「・・・・・・!」 「・・・・・」 川岸で何事か話している者達がいた。先に話かけたのがおそらく上役だろう。いかにもな三下(話しかけた方も似たり寄ったりだったが)は、申し訳なさそうに上役のいうことに一々うなずいていた。 上役からなにか指示を受けたらしい三下は、急ぎ足でどこかに向かう。川原は整地されているとは言い難い状態だったので、走っては怪我するからだろうか。三下の行く先を目で追っていくと、三下は同輩とおぼしき近くの者に声をかけてとあるバンガローに向かって行く。そして、中から妙齢の女性ともじゃもじゃ頭の少年を連れ出すと、先程の上役の下へと連れて行った。 「雪乃・・・・」遠目で暗い中でもそれが雪ノ下雪乃であることを八幡は見て取った。少年の方は佑司だろう。 時計をみると、まだ作戦開始時刻まで30分の猶予がある。八幡は、持ってきたバッグから、もう最近では時代送れになったP-90サブマシンガンを取り出し手に持った。動作を簡単に確認すると、雪乃たちが連れて行かれたバンガローと同じ高さの茂みに向かって小走りに走る。茂みに到着すると身体を隠し、同じバッグの中からレーザー盗聴器を取り出すとバンガローのガラス窓に向けてスイッチを押した。 「・・・・・と、言ってやったら、『好きにしていい』と言いやがったよ。どうやら、あんたのオヤジさん、どうやらあんたを見捨てたらしいな」と言っている。 「オヤジなんか関係ない。俺がどうなろうが、あいつは俺なんかのこときにかえたりしないさ」 「そうかい。じゃあ、どう処理しようが俺たちの勝手というわけだな」 「この子になにをするつもり?」 「気になるか?おまえさんは、この子がどうなるかより自分がどうなるか気にしたほうがいいんじゃないのか?」 「!」 「雪ノ下大二郎幹事長が父親なんだってな。どうやら、雪ノ下大二郎も打つ手なしでお前さんを見放さざるをえないようだぜ」と下卑た声でいう。八幡は、レーザー盗聴器を握る手に自然と力が入るのを感じた。 「一体、どうしたら雪ノ下大二郎を暴走さえられるかねえ」 「触らないで!」 「おお怖い。そんな目で睨まれるとなんかゾクゾクしてくるねえ」 「私たちになにかしたら、あなたたちただじゃすまないわよ」 「どうなるっていうんだ?」 「あの人が、八幡があなたたちを八つ裂きにするわ」 「あの探偵か、探偵風情になにができる」 「あまり、人を外見や社会的地位だけで判断して馬鹿にしていると痛い目みるわよ」 「痛いのはお前の方だ。なんだ、隠された力とやらが発動して皆殺しにされるってか。残念だが、殺されるのは奴の方だ。その後で、お前をゆっくり調教してそれから父親の下へ送り返してやる。俺たちの言う事をなんでもきくようにしてからな」 「この下種共が!」 「なんとでもほざけ。力なき正義ほど虚しいものはないな」 「・・・・・!」 「この世はな、力だよ。力のあれば悪でもなんでもいいように出来るんだよ!」 その時、バンガローに激しい銃撃が加えられ、彼ら双愛会の構成員のうち何名かが銃弾に倒れた。 「襲撃だ!!」 「お前等、外の奴等に連絡して周囲を捜索させろ!捉えて八つ裂きにして、犬の餌にしてやれ!!」 「全く、とことん安っぽい悪人だぜ」その安っぽい悪人の徴発に乗って、作戦開始時間前に行動を起こした自分は安っぽい正義のヒーロー気取りの間抜けか。そう自嘲しながら、八幡は茂みを抜出して山の中に入って行く。かなりの急斜面で、上っていくのに骨を折る。 「待ちやがれ!」 どうやら、こっちを見つけたらしいが、待てといわれて待つ馬鹿はいない。八幡は、ちょっと上ったところにある岩陰に身を潜めると、正確に狙いをつけて上ってくる連中の一人に照準をつけて三点バーストで銃撃をあびせた。 「がっ!」と叫び声をあげて三下の一人が斜面を転げ落ちていく。残りの連中は二手に別れて斜面を上って行く。八幡を包囲しようとしているらしいが、ろくな遮蔽物もない中で回り道をしようとすれば斜面を利用するため、かなり大回りしないといけない。回り込むこが不可能な、こちらから見える位置にある連中は放っておいて、八幡は回り込みを開始したもう片方の連中のうちまだ斜面の向うに隠れていない者を狙い撃ちにする。二名ばかりが打たれて先程の間抜けと同じ運命をたどる。さらに二名減らしてから、左手でP-90を構えつつ、回り込みをはかる連中の下方に回り込みさらに銃撃を加える。 「うげっ!」と、潰されたカエルのようなうめき声をあげて一命が転落する。危うく堕ちてくる三下そのいくつかの身体を避けようとするが、そいつに掴まれて八幡も一緒に転げ落ちた。 何メートルか転げ落ちたところで、途中の気に捕まり、斜面下の平地に叩き付けられるのを避けた。 しばらくすると、反対側の斜面からキャンプ場に銃撃が加えられているのに気がついた。どうやら、事態の急変に気がついた四課の連中が加勢してくれているらしい。美しいフォーメーションで確実にキャンプ場に模した敵陣地に近づいて行く。 ふとみると、斜面下の機甲兵装が機動するのが見えた。時代送れの『ゴブリン』だ。三騎ほどがのっそりとした動きで四課の布陣する対岸へと向かう。そこへ、川上からきたSIPDの『バーゲスト』が突入していった。更に、『ゲイボルグ』と『バンシー』が突っ込んでくる。更に追加でゴブリンが何体か機動して戦闘に加わり、事態は乱戦の様相を呈してきた。 八幡は、それを尻目に、銃弾の飛び交う中敵陣へと突入していった。そして、雪乃たちが捉えられているバンガローにたどり着くと、ドアを蹴破って突入する。一瞬、大きな鉈が振り下ろされ来て、それをP−90の銃身で受けとめる。相手を蹴り飛ばすと身を起こし、さらなる追撃をする。相手の顎目がけて蹴りあげて気絶させた。更なる敵がいないかと周囲を見渡すと、手近にあった混紡を拾い上げて雪乃が身構えていた。 「雪乃・・・・無事か」 「八幡!」そう叫ぶと、雪乃は八幡に抱きついてきた。 「感動の再会はまた後だ。ずらかるぞ」 「・・・・・」 「どうした、佑司!」 「俺は行かない」 「馬鹿なことを言ってないで来い!直に、ここも四課やSIPDに蹂躙される。俺は彼らの襲撃の隙を付いてお前たちを助けないといけない。ここにいるはずの無い人間なんだ。巻き込まれて死ぬかもしれないぞ」 「死んでも良い」 「なにを馬鹿なことを」 「俺なんか、居なくてもいいんだ!!」 「馬鹿野郎!!」というと、八幡は佑司を殴り倒した。 「痛えなあ、なにすんだよ!!オヤジにだって殴られたことなにのに!!」 「殴られずに一人前になった男なんているか!!」 「そんなの横暴だ!」 「いいか、お前は重大な勘違いをしている」 「なにが勘違いなんだよ。現に今さっきだって・・・・」 「お前は、オヤジさんやお袋さんの意図を勘違いしている。俺たちも勘違いしていた」 「なにを・・・・」 「何もかもだ!自分が愛されていないことからなにからなにまで全てだ!!いいから、とにかく早く来い!」 そう言うと、八幡が半分いかれたP-90の弾倉を外し薬質から弾を排莢させるとバッグにしまい込み、別途用意していたマテバ社のハンドガンを取り出し右手に持つと左手を佑司に差し出して言った。 「お前は愛され居なかったわけじゃないんだ。それだけは信じてくれ」 そういう八幡の目をみて佑司は観念したように八幡の手を握った。 そして、八幡は佑司の手を引いて行く。雪乃にバッグを持たせ、中にあるもう一つのハンドガンを装備させると、キャンプ場を後にした。背後に双愛会と四課、SIPDの銃撃戦の音を聞きながら。 (つづく)

[キャッツキルの鷲(2)] [最終章「約束の地」]