キャッツキルの鷲(2)

作者:佐藤@Celaeno
[2019/06/03(月)]
「初秋」

[閑話 「キャッツキルの鷲」的な材木座パクリ小説] [キャッツキルの鷲(3)]

八幡の怪我は思ったより軽かった。というより、彼は損傷箇所を交換するだけで済んだのだ。 右肩と右脚太腿に弾丸を受けて損傷し修理が不可能ということで交換をした。全身義体はこういうとき便利だ、だがオリジナルな部分で残っているのは内蔵と生殖器と頭部だけだがと、八幡は皮肉まじりにそう思った。 「こちらです」と、事務員に導かれて圏軍庁舎の一室に入って行った。 「比企谷か、こちらに来てくれ」といって荒巻洋輔がソファーを指し示す。 「失礼します」といって、八幡は荒巻と対面の席に腰を下ろす。 「眼鏡かけるようになったんですね」 「ああ、流石に寄る年波には勝てない」 「全身義体にしようと思ったことは?」 「なかなか踏み切れないよ。世の中には、わざわざ健全な生身の身体を捨てて全身義体にしたがる連中もいるようだがね。古い考えとは思うが、私は親から貰ったこの身体を捨てる気にはなれんのだ」 「俺も、捨てたくはありませんでした。生きるために、目的を達成するために仕方なくこの身体にしましたが」 「そうか」といって書類に向けていた顔をあげた。 「今日来てもらったのは他でもない。雪乃君と佑司君の居場所がわかったのだ。それで、約束通り君に情報を渡そうと思ってな」 「拉致されているとわかっても、なおも軍も警察も動けないんですか」 「裏稼業を生業としている組織だからと馬鹿には出来ん。いや、裏稼業だから馬鹿には出来んのだ。この一週間、情報を掴んでは場所を変えられということが二回ほどあった。どうやら、軍警察や情報部内部にも、やつらと繋がりのある者達がいるらしい」 「情報の流れから、その内通者は特定出来たのですか?」 「出来たよ」 「名前を聞いてもわからないでしょうが、一体誰です」 「物部大樹参事官と彼に繋がる一派だ」 「また奴ですか」 「正直、あの時に処分しておくべきだったと後悔しておる」 物部大樹は日本国内務省国家警察局の参事官である。内務省復活の立役者であり、省内に大きな影響力を持っていた。 「武器密輸や人身売買も、内務省がなんらかの思惑あって見過ごしていると?」 「内務省、いや政府の総意なのかどうかはわからん。かなり前から内偵はしているが、なんせ相手が大きすぎる。それで、先の『案件』でも手が出せなかった。奴等の勢力は大きく、その根はあらゆるところに入り込んでおる。一朝一夕になんとか出来るものではない」 「それは身をもって知っていますよ。しかし、物部が関わっていたとは」 「彼は、雪ノ下幹事長の弱みも握っているらしく、娘を拉致されても雪ノ下幹事長も動けない状況だ。だが、こちらも掴んだ情報を基に奴等に対する牽制は出来る。だが、あくまでも牽制が可能というだけで、決定打とはなりえない」 「既成事実として、雪乃と佑司を救い出し、それに対して手出しをさせないためにしか使えないと?」 「いや、今回の案件に絡む全ての人々の安全を確保しようとしたら、さらなる情報を確保しないといかん」 「武器密輸と人身売買の決定的な物的証拠ですか」 「そのために、エインセル一体とその操縦者を確保する」 「敵地に乗り込んで、彼らからそれを奪取しろと?いくらなんでも無茶すぎる。俺一人では無理です」 「そういう言うだろうと思って、人員を貸し与えることにした」というと、荒巻はテーブルの上にあるインターホンで呼び出しをする。 「沖津君、貫木君、入ってくれたまえ」 暫くすると、男女のペアが入ってきた。 「紹介しよう。といっても、沖津君は知っているな」 「久しぶりだね。比企谷君。あの件が終わって以来会っていないが、雪ノ下君ともども元気にやっていたようだな」と言って手を差し出してきた。 「いえ、こちらこそ。今までなんの挨拶にも伺わず、ご無沙汰しておりました」と言って握手を返す。 沖津旬一郎警視長は知っていた。彼とは何度か一緒に仕事をしたことがあるし、なんといっても八幡を鍛え上げたのは彼であった。 「そして、こっちが貫木真琴少佐だ。陸自レンジャー四課の実行部隊長をしておる」 「はじめまして。貫木真琴です」といって手を差し出す。丸顔ではあったが、とんでもない美人で、軍服を来ていなければとても軍人だとは思えない繊細な印象を受けた。短く、しかし女性らしさを失わない髪型がとてもよく似合っていた。 「こちらこそ、はじめまして。比企谷八幡と言います」といって、貫木にも握手を返す。 「今日、彼らを君に紹介したのは、これから行う作戦で君の支援をするためだ」 「どちらかというと、俺のほうがおまけっぽいですね」 「そう拗ねるな。まあ、これから言うことを聞いたらもっと拗ねられそうだが」 「作戦の内容を教えてください」 作戦は非公式のものとして実施される。沖津の指揮するSIPD突入班はエインセルの確保を、貫木たちレンジャー四課は搭乗員の確保をする。その間に八幡は雪乃と佑司を助け出す。 突入の理由と経緯のカバーストーリーこうだ。 「彼ら、SIPDとレンジャー四課はそれぞれ付近で訓練中ということにする。そこで、付近で発生した発砲事件に対して神奈川県警からの『確認依頼』に従って目標施設に突入し、『偶然見つけた密輸機甲兵装』を沖津君のSIPDが、『偶然見つけた拘束状態の少年少女』を貫木君たちレンジャー四課が確保するというものだ。上層部には、それぞれ沖津君から警視庁と神奈川県警に、貫木君が上司である久保田大佐を通じて陸自上層部に丹沢某所で訓練を行うことは通達してある。彼らの行動の本来の目的は、先程説明した事情で秘匿してある」 「沖津さんはともかくとして、その久保田大佐は信頼できるんですか?」 「久保田大佐は、私の兄の友人の一人だよ。出世欲はあるが、不公正なことは嫌う性質の人間だ。少なくても、物部たちと繋がるような奴ではない」 「久保田大佐にはどれくらい事情を説明してあるんですか?」 「圏警察の訓練のために、彼らを貸してくれるように頼んだだけだよ。貫木君と私は旧知の仲でな。君の知らないところで、例の『案件』に絡んで仕事をしていた」 「君も関わっていたのか」 「ええ、私も父があの『案件』絡みで犠牲になって、それであなたと同じく『敵』と対決していたの。だから、ある意味戦友ね」 「戦友と一緒なら、頼もしい」 「でも、今回は事情が事情だから、あなたを表立って助けることは出来ないわ。せいぜい、現場での殺傷行為を見て見ぬふりしか出来ない。ごめんなさい」 「いや、敵を惹き付けてくれるんだから、文句は言えないさ」 と言うと、荒巻が申し訳なさそうに話に割り込んできた。 「で、大変言い難いことなんだが」 「なんです」と八幡 「最初に敵の注意を惹き付ける役なんだが・・・・」 「で、これかよ!」と、移動するヘリの中で八幡は毒づいた。 「通りで、あの猿オヤジがサービス満点な配慮をしてくれると思ったら、俺が端緒を作れときたもんだ。全く、あの猿オヤジにかかわると碌な目に合わないぜ!」 「そうぼやかないで、これでも結構無理したんだから」と貫木が言った。 「そろそろ目標のLZ付近に到着します。比企谷少佐・・・」 「少佐じゃない。警視だよ。それも元警視だ」 「じゃあ、御武運を」 「ああ、せいぜい死なないように頑張るさ」というと、戸口に立つ。 「大丈夫、あとのことはまかせて」と貫木は声をかけてきた。 「ありがとう。これだけでも十分すぎるぜ」というと、八幡は飛び降りた。 飛び降りてすぐに、衝撃緩衝剤が充填されたシェルが身体の周囲に展開される。 それはまるで巨大なサッカーボールのようであった。 サッカーボールは着地すると、中に入っている緩衝剤を少しずつ怖しながら転がるスピードを減速させていった。 八幡は止まったボールの中から出てくるとひとりごちる。 「全く、何度やっても馴れねえなあ」そういいながら左手首に付けた時計を見る。 「あと2時間か。急いで目標に行かないとな」そう言うと、手元の端末に映し出された地図を見ながら敵のアジトへと向かって歩き出した。 (つづく)

[閑話 「キャッツキルの鷲」的な材木座パクリ小説] [キャッツキルの鷲(3)]