キャッツキルの鷲(1)

作者:佐藤@Celaeno
[2019/06/03(月)]
「初秋」

[ダブル・デュースの対決(3)] [閑話 「キャッツキルの鷲」的な材木座パクリ小説]

「男の方は気がついたか」という声によって八幡の意識は呼び戻された。 一体、なんにがどうなっているのかと八幡は記憶を探るが、 あれから、自分は一体なにをどうしたのかと考える。雪乃はどこに行ったのか。 佑司は?財ノ字の奴はどうした?皆無事なのか? 「他の三人の死体は・・・・この男とどういう関係があるんだ?」その言葉を聞いて、一瞬雪乃たちのことなのかと混乱するが、それ以上はわからない。他にも誰か居たような気がするが、三体の遺体が誰のものなのかはついぞ知れない。彼の意識は混乱したまま薄れて行った。 「雪乃、、、、佑司、、、」そう呟くと八幡は意識を失った。 次に八幡が意識を土取り戻したのは、病院のベッドの上だった。 「知らない天井・・・・って、俺はなにを古いネタを・・・」首がなかなか動かせない。一体ここがどこなのかは、目に入る白い天井からは知れなかった。 1時間程だろうか、ずっと天井を見上げていたがあまりにも暇だったので、八幡は天井に貼ってあるパネルに開いていた通気性確保のための細かい穴を数えていた。そうしていると、廊下の方から靴音が聞こえてきた。足音の感じからすると医者ではないようだ。なにかないかと周りを見渡すが、手に入りそうな凶器はなにもない。今時は、点滴の「針」でさえビニール製だ。差すために金属製の外殻で覆い、差すと外殻だけ抜き取る。なんといっても、この針のいいところは患者が不意に身体を動かすことによって生じる血管の動きで血管を傷つけ液漏れをしないことだった。そんなわけで、手元には針さえないという状況だった。 足音は不意に八幡の病室の前で止まると、足音の主が病室の扉をノックする音が聞こえてきた。どうやら襲撃者ではないらしい。 「どうぞ」と八幡は返答する。そうすると、ドアがスライドして開き青い制服を来た警官とモスグリーンの制服を来た軍人、そして背広を来たいかにも制服が似合いそうな初老の男が入ってきた。 彼らは、ゆっくりと八幡のベッドの横に来ると立ち止まった。 「久しぶりだな、比企谷」と初老の男が言う。男の名は荒巻洋輔、かつて八幡の上司だった男だ。 「荒巻部長、軍情報部から警察に転職されたんですか」 「いや、いまは圏軍の軍警察に顧問として出向しておるよ。まあ、警察官と似たようなものだがね」 「で、俺のところに来たのは、雪ノ下とこの別荘を襲撃した奴等の親玉の件についてですか」 「まあ、そんなところだ」と言って、荒巻は書類を取り出した。 「君を襲撃したのは、この男達かね?」といって差しだれた書類には、あの三人の顔写真が彼らの諸元と共に載っていた。見ると、いずれも軍の特殊部隊出身らしい。『軍曹』と呼ばれていた男は元陸上自衛軍大尉で、他の二人もそれぞれ中尉と少尉でいずれも士官であった。 「さあ、暗闇でよく見えなかったからわかりません」 「別荘があんなに盛大に燃えて、明かりは十分あったはずだが」 「詳細な経緯も、記憶の混乱でよく思い出せないんです」 「そうか、それは残念だな」と、本気で残念そうに言っているように言う。 「で、そいつら何者なんですか」 「見ての通り、元軍人だよ。それ以上は、君に話す必要はないと思うが」 「襲撃され、大怪我をしたのに?」 「捜査上の機密だからね。君と交換できる情報が無いのでは、これ以上明かすこともあるまい」と言って、八幡を見つめる。暫く睨み合うように互いを見ていたが、これ以上は埒が明かないと思った八幡は、ゆっくりと口を開いて荒巻に聞いた。 「そいつら、双愛会の連中ですよね」 「何故そう思う?」 「俺は、ある少年を保護していて、その少年に絡んで色々調べているうちに、双愛会の武器密輸の一端を掴みまして、それで命を狙われたものと思っていました」 「まあ、凡そその通りだ。双愛会の現会長相馬徹が差し向けた連中だろう。確証はないが」 「・・・・あの事件のとき、最後に救助されたようですが、あなた達ですか」 「県警の組対のなんていったかな、財津・・・・」 「材木座警部補です」と軍服男の方がいう。制服をみると、大佐の階級章をつけていた。おそらく圏軍警察の情報部門責任者だろう。 「材木座からの正式な依頼ではないですよね。県警の回線でも盗聴していたんですか」 「あの材木座という警部補は信用出来そうだが、県警の上層部はそうでもない。未だに長引く不況と行政府の予算不足は、警察組織の腐敗を悪化させている」 「まあ、十分な給与を払わなければ、忠誠心も買えないでしょうって」 「そうだな。しかし、君も相変わらずだ」といって少し笑顔を見せる。 「まあ、色々見てきましたから、見返りもなしに忠誠心を求める精神論なんか全く信じちゃいませんよ」 「ふむ・・・・すまんが、彼と二人きりにさせてくれんかね」と荒巻は他の二名に言って人払いをした。 「二人きりということは、非公式な情報交換をしていただけるということでよろしいのですか」 「規則で縛られ、四角四面にやっていたのでは速度感のある仕事は出来んからな」 「『信義より効果だ』って、昔言っていましたっけ」 「その通りだ」というと、少し間を置いて荒巻は口を開いた。 「君の知っていることは全て話してもらえんだろうか。こちらも、それ相応の見返りは出すつもりだ」 「先に、材木座たちはどうなったんですか」 「普通、恋人の心配をしないかね。あと、遺伝子上の息子の心配とか」 「そこまで知っていたんですか」 「うむ、内偵を進めて行く過程で、佑司君のことを知った。大変な目にあってたらしいな」 「父親は家庭を顧みないし、母親は息子をネグレクトしていた。離婚をするってんで、意地の張り合いから佑司をお互い奪い合っていた。ただ意地をはるためだけにだ」そういうと、八幡は拳を握りしめた。 「集められるだけの証拠を集めたら、交渉をして佑司から手を引かせるつもりでした。彼は、両親からふんだくった慰謝料と養育費でもって自立するまで誰かに扶養させる。なんなら、アンドロイドでもよかった。愛情の無い両親の下にネグレクトを受けたまま居るよりかはなんぼかマシだったはずだ」 「愛情か。極めて主観的だな。実際のところ、本当にそうだったかどうかは誰にもわからんよ」 「調査した結果わかったことだ。ネグレクトは確実だった」 「そうとられても仕方ない状況だったな」と言って、また別の書類を取り出した。 「これは?」 「相馬祐介に関する資料だ」というと、その書類を八幡に渡した。 書類を受け取った八幡は、素早く書類を読み込んだ。そこには、彼ら私立探偵では調査できないような事実が書き連ねてあった。 「相馬徹は兄だったのか」 「戸籍上は遠縁の親戚ということになっておるが、実は腹違いの兄だったらしい。相馬祐介も、ここ数年知ったらしいがな。相馬家はかなり複雑な家庭事情を抱えておって、彼はその犠牲者だったというわけだ」 「で、兄の裏稼業を手伝ってというわけではないと?」 「ああ、あまり乗り気ではなかったらしい。しかし、彼の所属している銀行が飛びついたらしいな」 「なんでまた」 「このご時世だ。景気のいいのは一部だけで、国全体では毎年の予算確保も難しい。銀行も投資先も投資のネタ金も乏しいから、ハイリスク・ハイリターンな裏稼業に投資して利益を出そうというわけらしいな」 「フロント企業にそれらしい名目で投資し、そのフロント企業は裏で本家に金を流す。フロントから流れてきた金で武器の密輸や『ポゼッションズ』の育成・販売をして法外な利潤を得、その利潤の一部をフロント企業に返し、フロント企業は銀行に配当や利子・元金返済の名目で金を返す・・・・見事な絵だ」 「その仲介に、相馬祐介は利用されていた。自分の銀行と兄の双方かららな」 「彼は、佑司を巻き込みたくはなかったと?」 「実際、幼少期はそれなりに愛情を注ぎ込んで育てていた。彼が子供にあまり構わなくなったのは、兄の相馬徹と銀行から裏稼業の手伝いをさせられはじめてからだ。多分、これ以上弱みを握られるのと、『弱み』として人質に取られるのを警戒してのことだったのだろう」 「母親の相模南も・・・・」 「佑司君が幼少期の彼ら親子を知る友人たちの話では、とても可愛がっていたらしい」 「そうなの。可愛いでしょ。もう子供を持てないと思っていたのに、こんなに可愛い子を授かって幸せだわ」 「俺たちの子です。血の繋がりはないですが、この子は俺たちの宝ですよ」 そんな風に言っていたと荒巻から聞いたとき、八幡は心の中で泣いていた。 祐介は決して愛されていなかったわけなない。愛されていたのだ。これ以上ないくらいに。しかし、父親である相馬祐介は佑司を危険にあわせまいと、まるで愛情が無いかのように接してきた。まさか、一連の出来事も全て祐介と南が仕組んだことなのか!? 「君が察しているように」といって少し間を置いて荒巻洋輔は続けた。 「全て、彼らが佑司を手放すために仕組んだこと。全ては演技だったのだよ」 「荒巻さん、佑司と雪乃は?」 「二人とも、双愛会の手によって拉致された。それから、材木座警部補も二度目の襲撃を受けた際に重傷を負っていまこの病院におる」 「部長、二人の居場所は?」 「聞いてどうするかね?」 「もちろん、助けに行きます。いや、二人だけじゃない。相馬祐介と相馬南も、なんらかの形で助ける」 「そうか。きっと、止めても君は行くんだろうな。だが、軍も警察も・・・・」 「決め手がないのに動けるはずがないでしょ。俺なら、私的動機で動ける!」 「生きて帰れる保証はないぞ」 「大丈夫です。きっと生きて帰りますよ」 (つづく)

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