ダブル・デュースの対決(2)

作者:佐藤@Celaeno
[2019/06/03(月)]
「初秋」

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「そっちだ!」遠く、燃え上がる雪ノ下家の別荘を背景に暗闇の中をうごめく人影が三つあった。 八幡はいま、佑司を狙うなにものかの襲撃を受けていた。 秋葉原での相模南との話し合いの後、八幡は一度県警本部の知人の下に寄ってから市原市高滝にある雪ノ下家の別荘にまで戻ってきていた。風呂に入った後寝ようとしたらこの様である。一体何物か。雇い主は大方相馬で、彼に繋がる裏社会の人間が寄越したのだろうが、いくらなんでも子供一人連れ去るのにやることが大袈裟すぎた。 「『軍曹』、奴等見当たらないぞ」 「『アフロ』、お前は右手を捜せ。『坊主』は左手を捜している。なんとしてもあと10分で見つけ出すんだ。この騒ぎで県警が来るまでに探し出さないといかん」 「わかった」 八幡たちが別荘の方にいると勘違いしてくれたことが功を奏して、八幡が別荘に仕掛けておいた罠が発動したことによって周囲に襲撃が知られてしまった。県警が来るまで時間稼ぎをすれば、この場は乗り切れる。 八幡は、手にした9ミリパラのハンドガンを握り、暗闇の中へ佑司と雪乃を救出するため走っていった。 ダブル・デュースの対決(2) 遡ること5時間前 「で、八幡久々に顔を出したらなんだと言うんだ。趣味で探偵稼業なんかやっているようなお前と違って、俺は忙しいんだが」 「おい、久しぶりに顔を出した元上司のその口のききかたはないんじゃないの」 八幡が顔を出しているのは千葉市中央区にある県警本部に来ていた。 「元上司って、俺があんたの下にいたのは公安課の『外事』でアフリカに行くまでの半年だったろ」と、目の前の白髪の男は言った。 「まあ、そうだな。で、どんなに忙しいの。材木座君」八幡の目の前にいる男は材木座義輝、かつて総武高校での数少ない友人の一人であった。いまは、県警刑事課の警部補で、組織犯罪対策課の課長代理補佐であった。別に某漫画のような冗談的な役職ではない。たまたま、この時期県警組織犯罪対策課に警部補が多かったのと、勤続年数も検挙率も高い彼がいつまでも係長では現場の指揮に影響するということがあってこういう半端な役職に付けられたのであった。 「いま、武器密輸絡みで双葉会を追っている」 「エインセルの密輸か」 「どうしてそれを知っている!?」 「いや、たまたま直近の案件に絡んで情報を得たからな」 「そういう、もっと早く言ってよ。八幡」といって、材木座は八幡に腕にしがみついてきた。 「キモい、良い年したオヤジが編な声出して同年代の男にしがみつくな」 「で、どういう情報なの?」 「同僚のよしみで教えてやらんこともないが、なんせ守秘義務というものがあるからな」 「守秘義務とは、実にらしくないことを言うではないか」 「案件の正否に関わる。取引材料にしようと思っているんだ」 「なんなら、情報隠匿で引っ張ってもいいんだぞ」 「やれるもんなら、やってみやがれ。いままでお前の捜査に協力するにあたってやってきたあれこれを上司にばらしてもいいんだぜ」 「おいおい、脅迫か」暫く二人は睨み合うと、材木座の方が折れてきた。 「で、その案件に絡んで協力して欲しいのか」 「ああ、結構ヤバい相手でな。大企業にお務めにもかかわらず、裏社会とも繋がりがある」 「八幡、企業スパイでもやっているのか。バレて追われているってんなら、俺は知らんぞ」 「するか、そんなこと。そいつと、別れた女房とのイザコザに巻き込まれて、行きがかり上その元夫婦の息子を保護しているんだ。近いうちに、なにか行動を起こすかもしれない」 「まだ、事件になっていないということか」事件になれば、好むと好まざるとに関わらず、警察は動かざるをえない。だが、まだはっきりと事件といえる状況ではないから警察に駆け込むという選択肢はない。そもそも、佑司のためにそれは避けたかった。相手を破滅させても、養育費は得られない。養育費が得られなければ、佑司は十分な教育を受けられない。それに、日本社会は未だに血族に犯罪者を持った家系に対して厳しいのだ。出来れば、内々に処理したかった。 「その息子のためか」 「ああ」 「相変わらず、無茶苦茶面倒なことに首を突っ込んでいるんだなあ。長生き出来んぞ」 「元上司をしょっちゅう自分の案件に巻き込んでいる駄目警官が何を言っているんだよ」 「それを言われると厳しいな」 「で、協力してくれるのか。くれないのか」 「まあ、話の内容による」 「というわけで、情報の裏取りをしてもらいたい。あと、いざというとき、なんとか佑司に害が及ばないようにしたい」 「無理筋だろ。にしても、そんなことがあったとは。知らないうちに、雪ノ下雪乃と子供をこさえていたとはな」 「子供をこさえたのは相模南だがな」 「しかし、相馬祐介と相模南には、どちらか子供が作れない身体的な障害でもあったのか」 「わからん。そこまでは調べられなかった」 「そうか」 「じゃあ、やれるだけやってみるが、相馬が真っ黒だったら庇いきれんぞ。その時には、佑司君にも相当の覚悟をしてもらわないとな」 「わかった。じゃあ、俺はこれで」と言って、八幡は立ち上がろうとした。 「八幡」 「なんだ」 「あまり無茶はするなよ。もう警官じゃないんだ。組織のバックアップも受けられないんだからな」 「お前に心配されるとはな。ありがとよ」 県警本部を出た八幡は、佑司を乗せて一路大網街道を京葉道路松ヶ丘インターへと向かった。 「ねえ、なにを話してきたの」 「万が一のために、保険をかけておいた。お前に害が及ばないようにな」 「父さんのことと関係あるの」 「ああ、下手な手出しをしないように、キツいお灸を据えてくれるように、元部下に頼んできたのさ」 「父さんの仕事のことかと思った」千葉寺近くの自宅地にある信号に差し掛かったところでぽつりと佑司がそんなことを呟いて八幡はブレーキを踏んだ。丁度進行方向の信号が赤に変わるところだった。 「佑司、お前親父さんの仕事のことをなにか・・・・」 「知ってるよ。父さん、ヤクザと関わりがあるんだ。父さんだけじゃない。父さんの銀行もだ」 「それって・・・・」 「比企谷さん、信号」といって八幡は信号が青に代わりつつあるのに気付いた。 「ああ、すまん」といって車を出す。 「よく、土気の自宅に来ていたんだ。一見、普通のビジネスマンに見える日本人や中国人、ときにはどこの国の人かわからない白人や黒人なんかと会っていた。流石に、白人や黒人たちは家の中には入ってこなかったけど、皆どこか普通じゃない雰囲気だった」 「いつからなんだ」 「もう、調べついているんじゃないの。僕の出生の秘密なんかと一緒に」 「詳しいことまではまだだ」 「もう、かれこれ三年くらい前からかな。よくおぼえていないや。母さんと父さんは、前から関係がぎくしゃくしていたけど、その頃から父さんの様子もおかしくなってきていて二人が喧嘩をするのも増えてきたんだ。母さんは外に出歩くことが多くなっていった。浮気もしていたみたい」 「で、お前はどうしたんだ」 「家にいるのが嫌になって、そこら中ほっつき歩くようになった。学校には真面目に言っていたけど」 「あのあたりじゃ、あまり遊ぶところが無いだろ」 「いつも学校に行っていた。休みでも開いていたからさ、図書館に入り浸っていたんだ。そして、ある日学校の中で奴等にあった」 「奴等って?」 「父さんの取引相手」 「学校で?」 「学校にいる外国出身の子たちの中に、奴等の身内みたいのがいたんだ」 「?」 「アゼルバイジャンとか、グルジアとかアルメニア、ソマリアなんかから難民として逃れてきて、日本国内にいる同族や日本人の家庭に引き取られた子達だよ。彼ら、そのほとんどが一時的に日本国内で『保護』されていて、やがて第三国経由で目的地に送られて『仕事』をさせられるんだ」 「仕事?まさか、ポゼッションズ・・・・」 「人間家具のことだろ。それならまだマシさ。大体が、軍事用犬みたいな仕事で使い捨てだよ。テロリストや途上国での『自由の戦士』、先進国の諜報機関の工作員・・・いや偽装テロのための・・・・」 「わかった、もういい。いや、お前に語らせることではなかった」 なんてことだと八幡は思った。思わない事件に首を突っ込みつつあるらしい。いや、もうすでに突っ込んでいるのか。ハードでルーズな探偵を気取っていたが、もはや一探偵に手の負えるような事案ではなくなっていた。まるで、警察か軍に出向していた頃に戻ったみたいだ。これから起こるかもしれない事態に寒気をおぼえつつ、市原ICを降りて257号瀬に乗り換えて大滝へと向かう。だが、八幡の後ろには、何台か挟んで一大のセダンが追尾していたのだった。 (つづく)

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