ダブル・デュースの対決(1)

作者:佐藤@Celaeno
[2019/05/20(月)]
「初秋」

[背信(4)] [ダブル・デュースの対決(2)]

相模南との会見は、都内の某所で行うことにした。 会見の当日、八幡は佑司を愛車のトヨタカリーナGT-Rをに乗せて都内に向かった。他にも何台か持っているが、どの車にも共通しているのは、なるべく目立たずその他大勢の車にとけ込むような特徴のない風であることだった。探偵や警官をやっていると自然とそういう車を選んでしまう。 助手席の佑司は無言で外を見つめている。ここ数日、ずっとこんな調子だった。 一体、なにが原因だろうと考えてみるが、佑司とのやりとりでこれといったことは思い至らない。 「佑司、君の母親と今日合うわけだが、今後の身の振り方についてはちゃんと方針を決めたのか。ここ数日、ほとんど会話らしい会話をしていない」 「僕らに会話が必要なの?」 「君の将来のために、君の希望を聞かないといけない。この1ヶ月で、君は大分自分の意見らしいものを持てるようになったと思う。君はどうしたい」 「本当の父や母と、普通に暮らしたい」 「相馬祐介と相模南とか。あの二人と一緒にいて・・・・いや、まあ君がそう望むのなら、なんとかしたいが。しかし、もうあの二人の関係は修復不可能だと思う」 「相馬夫妻ね、、、、いいよ。そうしておくよ」 「ん?どういう意味だ?」 そう佑司に問いただしたが、佑司は全く聞く耳持たずといった態度で顔を背けて外を見ていた。八幡は仕方なく車を操り湾岸線を都内へと向かった。  秋葉原UXの駐車場に車を入れると、八幡たちは地上に出て近くの喫茶店に入った。  喫茶店に入ってすぐに相模南を見つけた。八幡は佑司と共に相模の下へ歩いて行った。 「早いな。たしか、約束の時間まであと15分はあったはずだが」 「交渉事で機先を制するのは当たり前のことでしょ。だから、早めに来たの」  八幡は、この瞬間まで相模を舐めていたことを自覚した。彼女はそれなりに優秀だったのだ。人に頼るというか利用しようする傾向があるという欠点はあったが、そのためには労力を惜しまないそういう女だったのだ。認識を改めないといけない。 「まだ、正式に依頼を受けていないのだが、事前調査をするつもりで張り込んでいたら事態が急転直下で変化してな。佑司君を確保してしまった」 「そう」そう返事をすると相模南は煙草を取り出して火をつけた。 「確保してから1ヶ月、なにも連絡をしなかったのをまず謝っておきたい」 「ところで、仕事の報酬を支払えば引き渡してくださるのかしら」 「そのことで君と話をしたいと思っていたんだ」 「引き渡せない?」暫く話をしていくうちに、やはり相模南には佑司を渡せないと八幡は結論付けた。 「ちょっと待ってよ、この子は私の子よ」と相模南は言った。 「色々調べさせてもらったが、俺は君等にこの子を引き渡すのが適切だとは思えない」 「なに言っちゃってるの、法的に私にはこの子を引き取る『権利』があるのよ」 「『権利』?」 「そうよ、この子は私の子であって、君は『赤の他人』でしょ。なんの権利があって・・・」 「この子は物じゃないんだ。一体、あんたらがどんな仕打ちをしてきたのか解っているのか」 「・・・・・・なにを・・・」 「君は、育児放棄をしてきたよな」 「なにを根拠にそんなことを」 「子供を託児施設に預けっぱなしで、仕事をするでもなく遊び惚けてあっちこっちと。どういう風に遊び回っていたのか、ここで詳細に話してやりたいが、この子の前だ。言うことは憚られる。どんなことをしてきたのか知らないわけじゃないよな」と、八幡は思わず激高しそうになってしまった。クールにならねばと思い直し、少し前のめりになった姿勢を彼は正した。 「旦那の相馬佑司もそうだ。交際関係は真っ黒で、子供の前では言うのも憚られる。この一ヶ月調査してきて、順当に離婚できるだけの証拠を揃えてやったよ。それを渡してやるから、この子からは手を引け。俺たちが然るべきところに申し出て、ちゃんと自立できるまで世話をしてもらえるようにする。このまま君たちに任せていたのでは、この子が不幸になる」 「なにを解った風なことを・・・・」 「あん?」 「調査している途中で、あのことを知って急に情が湧いたっての!?」というと、相模南はテーブルを思いっきり叩いた。 「あの事・・・おい、まさか」 「そうよ、その子の遺伝子提供者の情報は知っているわよ」 「おい、いまここでそんな事を!」 「いいでしょ、だってその子を私から引き離すつもりなんだから」そう言うと、相模南は祐介に視線を移すと言葉を続けた。「あんた、私たちの本当の子じゃないのよ。遺伝的に全くの赤の他人ってわけ」 「そんな・・・・」と祐介は呟いた。 「そこにいる、凡庸な顔つきの男と、その相方の女が本当の・・・・」 「いい加減にしろ!」というと、八幡は立ち上がって相模に掴みかかろうとした。 「お客様、おやめください!」相模に掴み掛かろうと延ばした右手を、どこからともなく現れた店員が掴んで八幡を相模から引き離した。 「他のお客様の迷惑ですので、どうかお引き取り願えますでしょうか」と、歳の頃は30代かと思われる男性店員が静かに告げた。 「ご迷惑をおかけして申し訳ない。もう、出ます」と八幡は呟いた。 「その子の事は諦めないから」と、憤懣やるかたないといった体で相模南は言った。 「法的にどうこうするつもりなら、いつでも受けて立つ」と八幡 「そうね、せいぜいあの女と対策でも立てるがいいわ」 「じゃあ、とりあえず今回はこれでいいな」 「ふん!」と、鼻息を粗くして相模南は立ち去った。 「なんで、俺なんかを・・・さっさと、あいつに渡しちまえば良かったのに」と佑司は呟いた。 「渡せない理由がある」 「あいつが言ったことが・・・・」 「祐介、もうバレたから言おう。お前の遺伝子的な親は、どうやら俺と雪乃らしい」 「・・・・・そう」 「だが、俺たちには法的な権利はなに一つない。お前が遺伝的に繋がりのある子であったとしてもな」 「どういう?」 「俺たちは昔、特別国家公務員として政府の仕事に従事していた。非常に特殊な職種でな、その上非常に危険だった。あまりにも危険なんで、子供が残せない可能性もあった。そんな俺たちに、政府は遺伝子だけでも残さないかと言ってきたわけだ。ある条件付きでな」 八幡は、ゆっくり振り返ると祐介に向かい合い続けた。 「その条件とは、提供した遺伝子情報を利用して生まれた子供達は生み育てた親に権利があって、俺たちは全面的に子に対する権利を放棄するというものだった。相続だとかで問題が起こらないようにっていう配慮だったんだろう」 「それを了承したの」 「ああ、だがまさかあんな両親の下に、、、、いや想定すべきだった。俺たちのミスだ」 「あんたらが俺をあいつらに渡さなかった理由は罪滅ぼし?それとも、子供を取り返したかったの?」 「純粋に、お前が不幸になるのを見過ごせなかったからだ。それは、お前が俺たちの子供だと判る前から思っていたことだ」 八幡のその言葉を聞くと、祐介は複雑な顔をして視線を逸らした。 「俺たちのことを責めてもいい。どう思われようと構わない。だが、お前はお前の幸せを掴んで欲しい。それだけが俺と雪乃の願いだ」 そういう八幡の言葉を聞きながら祐介は「それじゃ駄目なんだ」と心の中で呟いた。 (つづく)

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